エセジャーナリストになる(後編)



 

「のりこさーん、朝ですよー」

トシ子さんに起こされる。
どこででも快眠をむさぼれる私。ぐっすりと気持ちよく眠れたおかげで気分は爽快だ!大きく伸びをして、ベッドから起きあがる。夜はお風呂に入れて、朝はシャワーを浴びられる。うーん、贅沢だなぁ。今日はマークさんを取材するから、ちょっとは緊張しなくてはいけないのに、あまり緊張感が湧かない。もともと緊張しない性質なのだ。人生の中で超緊張したのは2回。高校受験の時の父兄同伴の面接と、車の免許を取るときの実地試験のときだけ。あとはただの緊張だから、数に入れない。(覚えてない)

日本食レストランで、イワシマさん、トシ子さん、私、そしてマークさんと共にランチを取ることになっていた。こういう時のメニュー選びはたいへんだ。私は食べると一気に口数が減る(食べることに集中する)し、今回のようなケースでは、いつ口紅を塗りなおすチャンスがあるかわからない。彼の表情も窺わなくてはならないし、やたらに食べるのが遅くてもいけないし、青海苔が歯や唇につく恐れのあるメニューは選べない。ということで、どんぶりに集中しがちな、汁そばやうどんは却下だった。こうやって日本食のメニューをじっと見てみると、甘い食べ物ばかりで辟易するなぁ。うなぎやカツ丼。どれも甘そうだ。うなぎは大好物だけど、本当は白焼きが一番好き。ということで、天重を選んだ。

私達の食事が終わる頃に、マークさんがやってきた。
今、ニュージーランドで流行っているクロップスタイル(ようは丸刈り)の髪型、肩に短く下げたバッグ。やっぱり音楽のセンスがある人は、ファッションセンスもあるものだ。取材されていた記事の写真では、あまりよく写っていなかったけれど、実際はハンサムで、かなり若く見える

「こんにちわー。初めましてー。」

日本語も流暢だ。しかし、母親であるトシ子さんに英語で話しているところを見ると、英語が彼のメインランゲージのようだ。...取材は英語でやるしかないな...。一抹の不安が過る。

レストランでは、彼とトシ子さんとイワシマさんの会話を聞きながら、普段の顔を観察する。会話の隙間から、彼なりに嫌気がさしている世界や目指している世界が見えてくる。なるほど、これは興味深い話が聞けそうだ。

食事の後、Cafeへと場所をかえる。
コーヒーも運ばれ、準備万端だ。ふぅ。
と、気がつくと、マークさんもトシ子さんも私を見つめて何かを待っている。おー、そうだよ。私から始めなくちゃいけないんじゃん。昨日まとめた質問リストを見る...。だけど、こんなふうに質問していくのってヘンだよなー。もうちょっと話を盛り上げてからそれとなく聞こうと思ってたのさ。でもまぁ、なんとかなるか。ぼちぼちと質問を始めよう。話を聞いていると、メモが取れない。だから、最初からこの会話は録音することになっている。あとで聞きとって、記事にするのだ。さー、行くわよ。あなたにとって、音楽、ジャズとはなんですか?

「えー。でぃす いず まいらいふ〜

と思いっきり和製英語的発音で答えられてしまった。彼も英語で話すべきか日本語で話すべきか、迷っているうちにそうなってしまったのだろうか。その後、流れはやはり英語になり、苦労しつつもなんとかインタビューは無事に終了した。あとでテープを聞いてみると、支離滅裂な質問をしていたりして、無茶苦茶恥ずかしかった。でも、彼のジャズに対する情熱は強く伝わってきた。そして、彼の特別な人だけが持つようなオーラも感じた。オーラなんて見えないけど、かわいい女の子とか芸能人とかスポーツ選手とか政治家とか、みんなちょっと特別な雰囲気があったりするもんで、私はそれを勝手にオーラなどと呼んでいたりする。

彼が繰り返し言っていたこと。それは「ジャズはスタイルじゃないんだ。魂なんだ。」ということ。彼が演奏するのは、ジャズの名曲というわけではなく、ジャズの魂なのである。彼 −マーク・クライブロウ −の公演は、日本でも行われる。機会があったら、ぜひ彼のジャズを堪能していただきたい。

その後、私は「もう一泊してったら」という言葉につられて、図々しくももう一泊してしまった。
その日の夕飯は、鮭の塩焼きで、やはりご飯を2杯平らげた。もっと食べていいよ、といわれたものの、やはり3杯飯はお行儀が良くないかな、と思いとどまった。

お父さん、私はかなりお行儀が良かったと思います。

−完−


 
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