エセジャーナリストになる(後編)
「のりこさーん、朝ですよー」 トシ子さんに起こされる。
日本食レストランで、イワシマさん、トシ子さん、私、そしてマークさんと共にランチを取ることになっていた。こういう時のメニュー選びはたいへんだ。私は食べると一気に口数が減る(食べることに集中する)し、今回のようなケースでは、いつ口紅を塗りなおすチャンスがあるかわからない。彼の表情も窺わなくてはならないし、やたらに食べるのが遅くてもいけないし、青海苔が歯や唇につく恐れのあるメニューは選べない。ということで、どんぶりに集中しがちな、汁そばやうどんは却下だった。こうやって日本食のメニューをじっと見てみると、甘い食べ物ばかりで辟易するなぁ。うなぎやカツ丼。どれも甘そうだ。うなぎは大好物だけど、本当は白焼きが一番好き。ということで、天重を選んだ。 私達の食事が終わる頃に、マークさんがやってきた。
「こんにちわー。初めましてー。」 日本語も流暢だ。しかし、母親であるトシ子さんに英語で話しているところを見ると、英語が彼のメインランゲージのようだ。...取材は英語でやるしかないな...。一抹の不安が過る。 レストランでは、彼とトシ子さんとイワシマさんの会話を聞きながら、普段の顔を観察する。会話の隙間から、彼なりに嫌気がさしている世界や目指している世界が見えてくる。なるほど、これは興味深い話が聞けそうだ。 食事の後、Cafeへと場所をかえる。
「えー。でぃす いず まいらいふ〜」 と思いっきり和製英語的発音で答えられてしまった。彼も英語で話すべきか日本語で話すべきか、迷っているうちにそうなってしまったのだろうか。その後、流れはやはり英語になり、苦労しつつもなんとかインタビューは無事に終了した。あとでテープを聞いてみると、支離滅裂な質問をしていたりして、無茶苦茶恥ずかしかった。でも、彼のジャズに対する情熱は強く伝わってきた。そして、彼の特別な人だけが持つようなオーラも感じた。オーラなんて見えないけど、かわいい女の子とか芸能人とかスポーツ選手とか政治家とか、みんなちょっと特別な雰囲気があったりするもんで、私はそれを勝手にオーラなどと呼んでいたりする。 彼が繰り返し言っていたこと。それは「ジャズはスタイルじゃないんだ。魂なんだ。」ということ。彼が演奏するのは、ジャズの名曲というわけではなく、ジャズの魂なのである。彼 −マーク・クライブロウ −の公演は、日本でも行われる。機会があったら、ぜひ彼のジャズを堪能していただきたい。 その後、私は「もう一泊してったら」という言葉につられて、図々しくももう一泊してしまった。
お父さん、私はかなりお行儀が良かったと思います。 −完− |
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