学 校 生 活



 
学校での生活は、とても楽しく刺激的
クラスメートは、スイス人一人、中国人二人、そして日本人二人(私を含む)と多国籍。私はそれぞれの国の文化の違いを楽しむようにしている。私のクラスは、中上級のクラスなので人数がとても少ない。クラスメンバーを紹介する。

ナット:スイスから来た25歳の男性。彼はとてもまじめなドイツ系スイス人。言葉に困ったときは、必ず絵で説明を挑む。パン作りの名人。

カルメン:香港ガール。ハキハキしていて溌剌なショートカットの女の子。年齢不詳

Dr.ビーン:上海から来た元外科医。NZにはイミグレーションでこちらに来ているが、いずれは祖国に戻るかもとのこと。

Nobby:JTB社員の日本人。フィリピン顔なので他のクラスの人は本気で彼がハーフフィリピーノだと信じている。

という顔ぶれ。
中上級とはいえ、やはり意思の伝達が苦しいときがある。そんなとき、筆談が出来るのが中国人。スイス人のナットは、エスチャーを乱用。そこそこに会話も弾み、皆と打ち解け始めたときだった。ハイジ事件が起こったのは。

私はクラスメイトといち早く仲良くなるために、私の知っている限りの共通の話題となり得るトピックをぶつけてみる。スイス...スイスについて知っている話題といえば、そうだ、ハイジだよ。そこで私はしたり顔でこう言った。「スイスと言えば、ハイジだよねー」 すると彼はきょとんとした顔をした。「ハイディ?」 イエス!ハイディだよ。本格的な発音じゃないか!さすがスイス人。本場だね。「ハイディは私の愛読書で、何度も何度も繰り返して読んだものだよ」というと、彼はゲラゲラと笑い出した。彼に詳しく聞いてみると、ハイジというのはあまりスイスでメジャーな物語ではないらしい。しかし、カルピス劇場はアジア全域で有名なんだよ。彼は再び声をあげて笑い始めた。「まじで?」ゲラゲラゲラ。「日本には、白くて柔らかいパンを"ハイジパン"といって売っているパン屋さんもあるんだよ!」この話しに、香港ガールも参入してきた。「そうそうそうそう!クララの食べていたパンったらそれはもう美味しそうだったわ」 散々笑ったナットは翌日、ある絵本を抱えて学校にやってきた。「スイスの伝統的な物語といえばこれだよ」 彼の持ってきた絵本は、それはそれはかわいらしいものであった。短くまとめると、町の子供達が自分の家の鐘(牛の首輪)を持ってきて自慢し合う、というものなんだけど、例によって貧乏な子供が貧弱な鐘を持ってきて哀しい思いをするんだけど、どっかの知らない家にある大きな鐘を盗み出すことに成功して、みんなと仲良く鐘を自慢しあい、めでたしめでたし、という話。冷静にハイジの話を分析してみてもそうなんだけど、スイスの童話ってどこかしら捻じ曲がっているような気がするんだけど...。

私のクラスには、もう一人日本人がいる。Nobbyというニックネームはこちらで男の人のシンボルを意味するものらしく、本人以外は皆、子のニックネームを楽しんでいる。ある日私は、こちらに来てから英語はかなり上達したか、と聞いてみた。すると彼は、「ええ、それはもう。」と自信たっぷりに答えた。なんでも、彼は仕事柄英語を話す機会が多い割には英語が苦手だったそうで、ある日外国人と打ち合わせをしているとき、あまりに理不尽な相手の要求に、「In that case, my face doesn't stad up!(それでは私の顔が立ちません)」とテーブルを叩いたその言葉は、まるで先方に通じなかった。そんな時、ようやく彼は英語の勉強が必要だということに気がついたのだとか。そうは言うけれど、彼は授業中のほとんどの時間、辞書と顔を付き合わせているので、なんだかもったいないような気がする。

Dr.ビーン。祖国では外科医を生業とし、他にもマッサージ師、鍼師としての顔を持つ。情熱的な人で、話が白熱すると、もう誰も彼を止めることが出来ない。テーブルをドンドン叩き、「イッダズンマター!!」と抗議したり、顔を真っ赤にして、「ドユー アグリ ウィズ ハー?」とすごい勢いでたずねてきたりする。

中国人と日本人は、共通の言語、漢字がある。わからない単語がると、すぐさま漢字に書き記し、「ああ、それか」などと納得する。ある日、授業で男性陣と女性陣に分かれてディベイトの準備をしていたときのこと。香港ガール カルメンは、私の発音が悪いのか、どうしてもillegalという単語がわからなかった。そこで彼女はノートに漢字を書いた。「合法?」違う違う。その逆だよー。私はこう書いた「not 合法」すると彼女はこのやりとりにいたく感心したらしく、それ以来、私が言葉に困ったり理解できなかったりすると、漢字で説明を補足してくれるようになった。私もこのやりとりが気に入って、質問に漢字を乱用するようになった。そんな日々の中、ある単語がどうしても思い出せなかったので、私は得意の筆談をDr.ビーンに試してみた。これってなんて言うんだっけ?私はノートにこう書き記した「出世」。すると彼は、ハハーンという顔でこう答えた「born」。ち、ちがう。ちがうよー。それは「出生」だよーーー。確かに世に出る、うん、生まれるってことかもしれないけどさー、違うよ、ビーン。そんなDr.ビーンは今日も洒落たボケをかましてくれている。

先日、スイス人のナットが学校を卒業した。卒業後、彼は旅に出た。現在のクラスメイトはたったの4人。寂しいけれど、学ぶには良い環境かもしれない。
 


 
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