オフミ報告 in New Zealand



 
久しぶりの対面

頭の中で姉の声がこだましていた。「あんた、人を待たせるの、平気でしょう?」 違うよ、違うよ、お姉ちゃん。待っててもぜんぜん平気だけど、待たせるのはやっぱり健康に悪いよ。

私は車の中で相当焦っていた。というのは、両親とオークランドのホテルで落ち合う時間が来ても、私はそこへ辿り着く道のりのまだ半分も来ていなかったからだった。両親にとって、初めての海外。さぞかし不安がることであろう。もしかしたら、娘が事故にあったのではないかと、心配で発狂寸前になっている恐れもある。ひー、どうしよう。どんなに急いでもあと1時間30分はかかるだろう。大遅刻だ。

下手に急いで、交通事故を起こしたり交通法規を破っておまわりさんに捕まってはいけない。早くこの焦りをなんとか取り除かなくては。そうだ。電話だ。ホテルまで電話をしよう。し、しまった!ホテルの電話番号を控えてくるのを忘れた!これはオークランド市内まで入って、公衆電話に置いてあるイエローページでホテルの電話番号を探すしかない。

しかし、ここはニュージーランドである。WhangareiからAucklandまでの道のりは、いけどもいけども牧場ばかり。ガソリンスタンドに公衆電話が常設してあるとは限らない。既に一時間遅刻しているところで、ようやく公衆電話と巡り会えた。急いでホテルの番号を探して、電話をかける。今ごろ、両親はホテルのロビーでおろおろしているに違いない。

「私の両親がロビーで待っているはずなんです。既に一時間は遅刻しちゃって...。」

「何時くらいにこちらに到着されますか?」

「あー、たぶんあと一時間後くらいに。」

ホテルの人は私の両親を電話口まで呼ぶことはなかった。それではメッセージを伝えておきます、とあっさりと電話を切った。しかし、私の両親はまったく英語が通じない。一体どういうことになるんだろう。

しかし、とりあえず焦りの原因は取り除いた。よし、再びホテルへ向かってレッツゴーだ。オークランドは昼時なので、多少車の数が多くなっていた。何、かつては初代ハニーをぶいぶい言わせて都心を運転していたんだ。オークランドごとき、お茶子のさいさいだよ。ちょっと坂道発進がいやらしいけどね。

ちょうど一時間後、ホテルの駐車場に到着した。急いでロビーに向かう。あれれ、いないよ、いない。あ、そうか。きっと待ちくたびれて部屋で待ってるんだ。それならそれで安心だ。ホテルのカウンターで両親を呼び出してもらう。もう一度言うが、私の両親は英語が喋れないし聞き取れない。ホテルのスタッフが「のりこ様がロビーでお待ちです。」と言うのに対し、何やら日本語で話す母の声が漏れ聞こえてくる。ホテルのスタッフは一瞬たじろぎ、目をきょろきょろさせて戸惑い、「お願いします!」と私に受話器を差し出した。

「あ、お母さん?今着いたよ。遅れちゃってごめんね。」

母は、じゃあ、部屋まであがってきてちょうだい、と部屋の番号を言う。さぞかし待ちくたびれたであろうと思いきや。部屋のドアを開けると、こちらも今着いたばかりよ、と言わんばかりに荷物が広げられていた。彼らの飛行機もずいぶん遅れたとのことであった。いやー、久しぶりだねー、というが、どうもそんな気がしない。いつも父とメール交換をしているので、それほど距離や時間を感じないのだ。まぁ、今まで私が一ヶ月以上家を空けたことはなく、例え3ヶ月間であろうと娘のいない家というのはずいぶん印象が違うものなのかもしれない。とはいうものの、いつも帰りの遅かった上に、何かと外に出まくって遊んでいた私が家にいたことなんて滅多にないのだけれど。

父はこの旅行に合わせて英語を勉強してきたらしいが、現地に着いたというだけで舞いあがってしまって、今までやってきたことは既にどこかへ飛んで行ってしまったらしい。母が、案外頼りにならない人だとボヤいている。このホテルへ入るときも、ドアマンの人に話しかけられたけど、聞こえないふりをしてしまったらしい。

「失礼をしてしまった。謝りたいが、なんと言えばいいのか?」

そんなことにイチイチ謝る人もいなかろうに、それが私の父の性分だ。私も似たような感性を持ち合わせているので、父の気持ちはよくわかる。それではそのドアマンには私から謝っておこうということになった。

お昼を食べに外へ出る際、父が「あの人あの人。あの人に謝ってよ。」と私をつつく。といいながら、父も黙っていられなかったらしく、ドアマンに向かって、いきなり「アイアムソーリー!」などと右手をあげて言っている。ここは私に任せてって言ったじゃん!まぁいい。目を白黒させているドアマンに「彼は先ほどあなたに失礼をしてしまったと後悔をしていてね。それを謝っているの。」と言ったら、のけぞってびっくりする。

「とんでもない!失礼だなんて!どうか何も心配いらないですってご両親に言ってください。」

背の高い初老のドアマン。我々を見下ろしているが、態度は実に腰が低い。このようなやり取りの間も、母は日本語で「ホントにもう、申しわけございません...」などと頭を下げている。ドアマンがノーノーノー!と慌てる。私が母にドアマンの言っていることを説明する。その間に、父が「アイアムソーリー!」と再び言う、ドアマンがノーノーノー!という...。しばらくドアマンと我々の間に混乱が見られた。ああ、両親と会ってまだ30分も経っていないというのに、既に私は気が狂いそうになっていた

ホテルの近くにある、『龍舫(Dragon Boat)』という中華レストランに入った。見た目がゴージャスで入りにくかったんだけど、今ならスポンサー付きだから、大威張りで入れるぞ。

このレストランは、席に着くなり、店の人が幾種類かの前菜からメイン、デザートをトレイにのせて選ばせてくれる。海外の中華料理はどこでもそうだけど、日本の味とぜんぜん違うし、メニューも違う。さっそく両親も真新しい中華メニューに唾を飲んでいた。豚をカリカリに揚げた前菜、さわやかな風味のクラゲサラダ、タレを付けて、香ばしく焼きあげられた鶏肉。どれもとっても美味しい。メニューから注文したチャーハンがやってくる。なんと、チャーハンはべトベトしていてそれほど美味しくない。お米が違うからなのか?

「周富徳がお店の良し悪しはチャーハンでわかるって言っていたけど、この店は例外だわね。」

と母が言う。チャーハン意外は実に美味しい。あんまし美味しいので、我々のテーブルを給仕してくれた若い男性にそれを伝える。この店では香港からの中国人を含め、メインランドからの中国人のシェフを中心に料理をしているとのこと。給仕をしてくれた彼は、店で唯一のインドネシアからの中国人だとか。味も私好みだし、店員さんも感じがいいので、私はこの店がとっても気に入ってしまった。

食事後、我々はオークランド名物スカイタワーに上がってみる。レジにはいつものインド系のおじさんが座っていた。

「大人3枚。いっちばん上まで行きたいの。今日はそこまでいける?」

天候によっては特別展望台まで行けないのだ。おじさんは、もちろんだよ、といって、特別展望台まで行けるチケットを発行してくれた。平日ということもあって、館内はガラガラ。展望台は東京タワーのようになっていて、館内をグルッと一周すると、オークランドを一望できる、という仕組みになっている。運良く、天気も晴れ渡り、遠くのWaiheke島まで見ることが出来た。こう見るとオークランドの景色とうのは、横浜の港にそっくりだ。若者が好みそうな新しいビルの間に見える低い丘、緑、港に停まるヨット、公園。母は未だに外国に来たという感じがしないという。

いいかげん、オークランドの景色も見飽きたと思い、お茶でも飲みに行くことにした。母が、「え。もう行くの?」という。父と私は声をそろえて、

一体何周したら気が済むんだ。

とたずねる。あら、そう?すっとぼけた母は、じゃあコーヒーでも飲みに行きましょ、と変わり身も早い。

スカイタワーの近くには、大橋巨泉のOKギフトショップがある。母がぜひ入りたいというので、入ることした。さすが、巨泉の店。土産品のありとあらゆるものが用意されている。素晴らしい。金額はちょっと高めだが、ものぐさな旅行者にはちょうどよい。お金を持った年齢層の高い旅行者か、新婚旅行者がターゲットといったところか。一通り見たところで、母が鼻で笑う。

たいしたことないわね

母上様。このような土産であなたが踊らされることなく堅実に土産を選ぼうとする姿に、私は感動しました

到着した当日は、母が一番元気であった。
運転疲れの私と、寝不足気味の父は、少々ぐっだり。
その日の夜、20年ぶりに両親と一緒に眠った。父のいびきで私は眠れなかった。
何度父の顔に濡れぞうきんをかぶせたくなったことか。
人のいびきぐらい、へっちゃらだったのに。肉親だと気になるという、意外な事実を発見。
 
 

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